【精液検査】

精液検査は、男性不妊症の診断・治療において最も基本となるものです。当院では、WHO精液検査ラボマニュアル第5版(2010年)に準拠して詳細な精液検査を行っています。
精液は、精液採取室(プライバシーの保たれた防音室)にて、ご自分で採取容器に全量を採取していただきます。2~7日間の禁欲期間が適当とされていますが、当院では2~3日間の禁欲での検査を推奨しています。また精液所見は変動することがあるため、少なくとも2回は検査する必要があります。検査は、精液採取室に隣接した検査室で行うため、採取容器を搬送していただくことはなく、精液が他人の目に触れることもありません。結果が出るまでに1時間ほどかかりますので、その間は外出されてかまいません。
当院では以下の項目について精液検査を行っています。

■精液検査項目

採取した精液を,室温にて15~60分間静置したのち,十分に液化,均一化させて検査します。
肉眼所見:正常は乳白色~白色です。血液が混じっていれば血精液、白血球が混じっていれば膿精液と診断されます。
精液量:重量法により測定します。精液量の基準値は1.5ml以上です。
pH:射精後1時間以内に、pH試験紙を用いて測定します。
精子運動率:精液を400倍の顕微鏡下に観察し、前進運動精子、非前進運動精子、不動精子の割合を算出します。当院では、精子の運動性を前進運動精子(活発に直線的あるいは大きな円を描くように動いている精子)で評価しています。精子運動率(前進運動率)の基準値は32%以上です。
精子濃度:精子の動きを止めて、計算板を用いて精子数を算出します。精子濃度の基準値は1ml中1,500万個以上です。精子が見当たらない場合は、精液全量を遠心分離して、それでも精子がいないかを確認します。
精子正常形態率:精子を染色して、Krugerらのstrict criteriaに準じて精子形態を分類します。精子正常形態率の基準値は4%以上です。
精子生存率:動いていない精子は、生きているのか死んでいるのか分からないため、精子を染色して、生存を確認します。死んでいる精子は頭の部分が赤く染まります。精子生存率の基準値は、生きている精子が58%以上です。
白血球数:精液中の白血球を染色して数えます。白血球数は1ml中に100万個以上あれば膿精液症と診断されます。

■精液検査の基準値

実は、日本人男性の精液所見の平均値(正常値)というのは分かっていません。それは、普通に妊娠した男性は精液検査を受けることがないからです。 以下の精液検査の基準値は最低限のレベル(これ以上はないと妊娠がむずかしい)を示したものです。
精液量:1.5ml以上 pH:7.2以上 精子濃度:1ml中に1,500万個以上 総精子数:3,900万個以上 精子運動率:32%以上 精子正常形態率:4%以上 精子生存率:58%以上 白血球数:1ml中に100万個以下

■精液所見の表現

正常精液:総精子数が3,900万個以上と前進運動精子が32%以上、形態学的に正常精子が4%以上 乏精子症:総精子数が3,900万個未満 精子無力症:精子運動率が32%未満 奇形精子症:形態正常精子が4%未満 無精子症:射精液中に精子が無い

■精液異常の頻度

男性不妊症外来を受診される患者さんの精液所見はだいたい次のようだとされています。とくに、精液中に精子がまったくいない「無精子症」の男性が10~15%もいらっしゃることに注目してください。 正常:55% 精子無力症:26% 乏精子症:8% 乏精液症:2% 奇形精子症:1% 無精子症:10~15%

◆詳しい精液検査

≪イムノビーズテスト≫ 不妊症の男性では自分自身の精子に対し抗体(抗精子抗体)を作っていることがあります。抗精子抗体が陽性であると自然妊娠は難しく、さらに陽性率が非常に高い場合には顕微授精(ICSI)の適応となります。イムノビーズテストは、運動精子の表面に結合した抗体にイムノビーズがくっつくかをみる検査で、精子にビーズがくっついていれば抗精子陽性(IBT(+))、くっつかなければ抗精子陰性(IBT(-))です。
≪Hypoosmotic Swelling Test≫ 低濃度の液(低浸透圧溶液)に精子を入れると精子の尾部が膨れますが、そのことから精子の細胞膜がうまく働いているかをみる検査です。尾部が膨れる精子が多いほど、人工授精や体外受精の結果が良好とされています。また、顕微授精(ICSI)の際に動いている精子が見当たらない場合には、この試験でICSIに使用する精子を決定します。